自由を守れ!筋トレゼミ第1回第2回の報告。第3回は11/25。
2015年 11月 21日
会場は愛大車道校舎 13階第3会議室
(地下鉄桜通線車道駅 1番出口徒歩2分)
テーマ:盗聴法・共謀罪の刑事法上の問題点について概説&議論
報告者:矢崎暁子弁護士
見守り助言者:平川宗信中京大名誉教授
参加費無料 申し込み不要
第1回、第2回について、報告します。

◆第1回
○盗聴法(通信傍受法)
現在、2000年から施行された薬物犯罪、銃器犯罪、組織的犯罪、集団密航という犯罪を対象に通信傍受法(盗聴法)が存在する。この法に基づき、警察は、裁判所から令状発付をうけて、電話、携帯電話、メールを傍受できる。傍受に際しては、通信事業者(NTT職員など)の立ち会いが必要である。メールについてはサーバを通過するすべてのメールを一旦取り込んで容疑者のメールだけを拾い出す仕組みだがチェック機関が存在しない。
今特に問題となっている「改正」案は、対象犯罪が広がる(殺人、傷害・傷害致死、現住建造物等放火、爆発物使用、逮捕・監禁、略取・誘拐、人身売買、窃盗、強盗、詐欺、放火、犯罪収益隠匿、児童ポルノ)。通信傍受について現行法上必要とされる立会人なしで、警察署内でいつでも傍受できるようになる。
そもそも憲法21条2項は「通信の秘密は、これを侵してはならない」と規定していることから、通信傍受を許す盗聴法は憲法に反する。改正通信傍受法のたてつけに問題はないか。さらには濫用される可能性があるのではないか。犯罪にかかわっていない人も傍受の対象となるのではないか。
○共謀罪
2人以上の者が犯罪を行うことを話し合って合意することを処罰対象とする犯罪で、共犯者のうち誰かが実際に犯罪行為を行っていなくても話し合っただけで犯罪となるのが、共謀罪である。
共謀罪法案では、窃盗、傷害、詐欺、有印私文書偽造などの長期懲役4年以上の刑を定める犯罪を対象とする。これは600以上もの犯罪が共謀罪も処罰することになる。長期5年以上の刑を定める犯罪を対象にとする民主党の対案でも役300の犯罪が対象となる。
団体活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものを対象としている。これは、組織犯罪集団の関与までは求められていない。
刑罰は、原則懲役2年以下だが、死刑、無期、長期10年以上の処罰がかせられた犯罪の共謀については懲役5年以下の刑に処される。犯罪の実行の着手より前に自首をすると刑が減免される。
共謀税法案は2002年に法制審議会で検討され、2003年通常国会に法案提出されたが廃案に、2004年通常国会で継続審議され、2005年衆議院解散で廃案に、2005年特別国会に提出され継続審議され、2009年に衆議院解散で廃案となった。2009年からの民主党政権下では法案提出されていない。
共謀罪の必要性として越境組織犯罪防止条約(国際的な組織犯罪の防止に関する条約)が主張される。この条約は2000年12月国連総会で採択され、日本も署名、2015年6月現在で185か月が批准している。この条約にそもそも批准するべきではないし、共謀罪新設をしていない批准国もあり、共謀罪新設は不要である。この条約は「テロ対策」のための条約ではなく、越境犯罪組織による利益目的の犯罪を処罰するものである。
○ディスカッション
盗聴法・共謀罪が自分たちの生活にどう関わるかを議論。取り締まるのは犯罪なのだから、市民活動には関係ないという議論についてどう思うか?集まるだけで共謀と判断されるおそれ、団体の構成員が一度犯罪をしたら、永続的に団体が監視の対象になるのでは?、密告による刑の減免制度により、でっち上げ事件や市民間の相互不信を誘発する?共謀罪の要件としての「団体」には定義上労働組合も入ってしまうのではないか。
○本秀紀教授・憲法学
憲法上、盗聴が許されていいのかという視点が必要、犯罪の捜査のためであれば、盗聴は許されていいのか、法律の立て付けの話と濫用のおそれの話は分けて議論した方がいいという指摘があった。


◆第2回
○特定秘密保護法の構造
「防衛」「外交」「特定有害活動」「テロリズムの防止」の4分野を対象に、公になっていないもののうち、その漏洩が我が国の安全保障に著しい支障を与えるおそれがあるため、特に秘匿することが必要であるものが、「特定秘密」に指定される。いったい何が特定有害活動にあたるのかわからないし、特定秘密に指定できる範囲が不明確である。
有効期限は原則5年を超えない範囲とされているが、例外が存在する。無期限の延長もできる。無期限に延長できるとする特定の7分野が曖昧である。
特定秘密を扱う公務員、契約に基づいて特定秘密を取り扱う事業者の従業員は適正評価制度の対象になる。評価対象者の同意のもと、親族、同居人の氏名、国籍、住所、犯罪歴、懲戒歴、薬物の濫用及び影響、精神疾患、飲酒の節度、信用状態について調査が行われる。
「特定秘密」を漏洩した者や特定秘密を取得した者には、10年以下の懲役及び1000万円以下の罰金がかせられる。教唆や扇動も処罰対象となる。
○問題点
「特定秘密」の範囲が広く、あらゆる情報が国民に知られない状況となる。マスコミが処罰をおそれて取材活動を委縮してしまい報道されないという状況がおこり、情報が国民に知られなくなる。(事前抑制性)
特定秘密保護法は、マスコミに対する不当な圧力にならないようにとしているが、明記されていない。情報開示請求しても特定秘密の指定管理簿は指定した省庁も黒塗りの状況で何が特定秘密に指定されているかわからない。そのような状況では、マスコミは委縮してしまう。実際マスコミは対策マニュアルを作っていて、委縮効果はすでに発生しているといっていい。
チェック機関としておかれた機関の人選が首相にゆだねられていたり、これらの機関に特定秘密を開示させる能力がないため、適切に運用されているかチェックすることが不可能である。
国家安全保障と情報への権利に関する国際原則、ツワネ原則に違反している。
武力行使の禁止、戦力不保持、交戦権放棄を規定した憲法9条のもとで、軍事機密があっていいのかという問題もある。
○共謀罪・盗聴法との関係
特定秘密保護法が共謀を処罰可能としていること、特定秘密保護法関係事件は盗聴法の対象とはされていないから、共謀罪や盗聴法が特定秘密保護法と直接連動することはないといわれる。
しかし、今後更なる法改正により特定秘密保護法関係事件が盗聴法の対象となる危険はある。刑事司法の現状からすると、別件捜査として盗聴法が適用されて捜査されて、特定秘密保護法関連事件について実際捜査が行われる危険もある。
また、「漏洩の教唆」の「共謀」や「取得扇動」の「共謀」といった、特定秘密保護法と共謀罪によって新しい犯罪類型が作り出される可能性は払しょくできない。
特定秘密保護法、共謀罪、盗聴法ともに、市民の監視に使うことができるという点で目的が共通である。
○質問やディスカッション
自首、共謀、教唆など刑事法上の概念、特定秘密保護法の構造について質問があった。法が、組み合わさって引き起こされる事態について考察した。参加者は、民主主義に不可欠な情報の取得や言論が封じ込められていくという問題意識を持った。