秘密保護法 運用基準案に対して海外からも痛烈な批判
2014年 08月 20日
2014年5月に来日されたモートン・ハルペリン氏(元米国NSCメンバー)と
ツワネ原則の起草で主導的な役割を果たした、オープンソサエティ財団の上級法律顧問の
サンドラ・コリバー氏(7月の自由権規約委員会へのカウンターレポートも作成)が
運用基準に対するバプコメを作成してくれました。
藤田早苗さんが英訳した運用基準と両者のコメントは、7月の自由権規約委員会での審査のフォローアップの一環として
藤田早苗さんが国連関連機関に送ります。
参考:内閣官房 秘密保護法パブコメ募集ページ
http://www.cas.go.jp/jp/tokuteihimitsu/ikenboshu.html
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運用基準に対するモートン・ハルペリン氏のパブリックコメント
1. 運用基準には、なにを秘密に指定してはいけないかという指標が欠けている
ある情報のもたらす公益が、公開によって生じる損害を上回るときには、その情報は秘密に指定してはいけない、ということ明確にするのが近年、秘密保護法に関して(国際的に)一般的になってきている傾向である。
また、指定の解除への要求に対応する際に、少なくともそのようなバランスをはかるテストが必要である。また、いくつかの裁判所でも、ある情報の公開によって生じうる損害よりも公益のほうが大きい場合には、政府はそれが政府役人でも個人でも、情報を公開したという理由でその人を罰してはいけない、という判決を下している。
当運用基準はこの概念を取り入れて改訂されるべきである。政府役人はある情報が秘密に特定されるべきだと決定する前に、公益を考慮することが要求されるべきである。(ある情報の公開による)公的な価値が損害よりも上回る場合は、その情報は秘密に指定してはいけない。秘密指定において、その指定の正当性を説明する場合には、指定をした役人はその情報の公の討論における重要性を吟味したことを明記し、いかにその情報の公開によって生じうる損害が公益よりも上回るのかを説明すべきである。
そのような基準の実施の一例は秘密指定に関する米国大統領令(E.O.13526)である。この大統領令の3.1(d)節は政府職員はある情報の秘密指定の解除をするかどうか考慮する際、「その情報の公開により当然予期される安全保障に対して生じうる危険を、公開による公益が上回るかどうか」を判断しなければならないと規定している。
また、人々が知る権利を有する政府の活動に関する情報や、国内法や国際人権の原則を侵害する行為を説明する情報も秘密指定されてはいけない。従って「公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として、指定してはならない」(運用基準II.4(イ))とするだけでは不十分である。それは、政府役人は自分たちが不法行為を隠したり、気まり悪くならないように、という「目的として」情報を秘密指定しているとは考えないからである。むしろ彼らは、自分たちは国家安全保障への危険を防ぐために情報を秘密指定しているのだ、と考えている。多くの場合、不正行為に関する情報を公開することで国家安全保障に対していくらかの損害が生じうる。実際、危険は多くの場合、まさに政府が国際法に反する行いをしていたということを明らかにすることに起因する。こういう理由のため、規則は単に不正行為を隠蔽する「目的として」という区分でなく、これらのカテゴリーに関わる情報の秘密指定の禁止をしなければならない。
近年のいくつかの秘密保護法は、汚職、人権侵害、その他の刑事犯罪、公衆衛生や安全に関する情報は秘密に指定したり、国民一般に与えるのを差し控えたりしてはいけない、ということを強調して規定している。裁判所もその立場をとり、例えば拷問に関する情報は決して秘密指定してはいけない、という判決を下している。
それとは対照的に、日本の秘密保護法には何を合法的に秘密指定してよいのか、ということへの制限が盛り込まれていない。運用基準に盛り込まれているのは「公益通報の通報対象事実その他の行政機関による法令違反の隠蔽を目的として、指定してはならない」ということだけである。前に述べたように、これでは甚だ全く不十分である。国民がどのような状況においてでも知る権利があるような情報は、秘密保護法のもとで秘密指定してはいけないということを明確にするように、運用基準は改訂されるべきである。
その点に関して、ツワネ原則には重大な人権侵害、人の生命の剥奪を許可する法律や規則、現存するすべての軍隊、警察、治安と諜報当局、そしてそれらの機関に関する法律と規則の存在、他国との安全保障協定や公約、武力の行使、大量破壊兵器の入手などの例が挙げてある。
ある情報が人々が基本的な知る権利を有する分野を含んだカテゴリーに関するものである場合には、その情報は秘密指定できないということを規定するように運用基準は改訂されるべきである。
2.法律(秘密保護法)は、明確な定義を行い、法の抜け道を極力狭めた場合を除いて、政府役人が報道機関に情報を提供しても政府役人を罰してはいけないし、また最も甚だしい状況を除いては、そのような情報へのアクセスに権限がない者(メデイァのメンバーやほかの市民のメンバーなど)がそれらの情報を出版・発表しても彼らを罰してはいけない。
日本の秘密保護法は、秘匿情報へのアクセスが与えられた者が、秘匿情報を報道機関に公開した場合にも極めて厳格な罰則を課している。大きな公的価値を有する情報の多くが秘密に指定されるであろうことを考えれば、刑罰は通信情報や戦争計画といった規則に明文化されるべきもののような、狭義で特定のカテゴリーの情報にのみ適用されるべきである。また損害が実際にその情報の公表によるものであり、その情報の公的な価値が損害よりも上回ることがないということを政府が証明するように要求されるべきである。
個人の市民に刑罰を科す範囲はもっと狭くするべきである。秘密保護法の24条1項は他国の利益のために利用したり、または日本の安全保障もしくは国民の安全を危険にさらす目的で情報を取得するためにその他の不法行為に従事する個人に対して、刑罰を科すのが適当かもしれない究極の状況についての適切な規定ではある。
しかしこの法規については、この法規による厳しい刑罰の対象になるのではないか、と恐れる記者やほかの民間人の行動を抑制するであろうという、もっともな憂慮がされている。民間人に刑罰が科されるのは、政府がこれらの条件をすべて満たす場合のみであるということを法規は明確にするべきである。「不法な利益を得る」という側面に関しては、ある人が政府が行っていることを一般大衆に警告することにより得られる「利益」はそこに含まれないように解釈されるべきで、事実上24条1項のほかの条件を拡大しないように解釈されるべきである。共謀、教唆に関する規定は、24条1項の条件をすべて満たしているということを政府が証明できる場合にのみ適用されるように明確に定義されるべきであり、人々が情報を得られるようにジャーナリストやほかの人が政府役人に情報を公開するように説得する努力はそこに含まれないということを明確にするべきである。
ジャーナリストを保護する趣旨の秘密保護法22条は24条1項よりも広義に解されうる。法規は22条で規定されている保護は24条の条件への追加であり、追加的な防御を提供するものであると解されるべきである。この規定(22条)に当てはまる人々の定義は広範囲でされなければならない。
民間人が取得した情報を公表することに対して刑罰で脅すのは危険なことである、ということは国際法上、確立している。自由権規約委員会は「安全保障を害さない正当な公益を有する情報をジャーナリスト、研究者、環境活動家、人権擁護者その他が公開すること」で起訴することは、日本が30年以上前に批准し締約国である自由権規約19条3項の違反である、と明言している。
3 人の表現の自由に関する国際的な専門家(国連、欧州安全保障協力機構、米州機構によって任命された)は2004年の共同宣言で、ジャーナリストやほかの民間人が公益のために情報を公開することに対して刑罰から守られるべきである理由を以下のように説明している。「官庁やその職員は自分たちの管理する合法的に秘密である情報の機密性を守る責任を負う。ジャーナリストや市民社会の代表は、不正行為やほかの犯罪によって情報を得たのでなければ、その情報が漏洩されたものであろうとなかろうと、その情報を発表したり広めたりすることで責任を問われたりしてはいけない。政府の秘密を公表したことで問われる責任を、その秘密を扱う公式な権限が与えられている人に限定していないような刑法の規定は、廃止または改訂されるべきである。」
(運用基準の英訳、英文コメントの和訳 ―― 藤田早苗;英国エセックス大学人権センター)
運用基準に対するオープンソサエティ・ジャスティスイニシアチブ(OSJI)のサンドラ・コリバー氏(シニア・リーガル・オフィサー)によるパブリックコメント
オープンソサエティ・ジャスティスイニシアチブ(OSJI)は日本の秘密保護法とその運用基準が、日本が1979年の6月21日から締約国である自由権規約と、またツワネ原則に反映されている国際法と規範、そして民主国家の法と慣行に及んでいないということに注意を喚起するために、このパブリックコメントを提出する。
OSJIは22の市民団体と学術機関の支援の下、世界で14の会合をもち500人以上の専門家により、国家安全保障と情報への権利に関する国際原則(ツワネ原則)の起草を促進した。ツワネ原則は表現の自由に関する国連特別報告者と、人権とカウンターテロリズムに関する国連特別報告者、そしてアフリカ人権委員会、米州機構、欧州安全保障協力機構のそれぞれの表現とメディアの自由に関する専門家、そして欧州評議会の議員会議によって支持されている。この原則はオープンガバメントパートナーシップで加盟国のコミットメントの実施を評価する際に用いられている。また内部告発者の保護に関する原則は欧州連合(EU)の欧州議会によって支持されている。
1. 何を秘密指定できるかということについての条件が精密性を欠く
秘密保護法の3条にはなにが秘密として指定できるかが挙げられている。運用基準はいくらかのガイドラインを提供しているが、不十分である。「防衛」などの重要な用語の定義がなされていない。
運用基準は、行政機関の長が、ある情報を秘密指定するためのいくつかのガイドラインが提供されているが、何を含んではいけないかを明記していない。よってここでは単に「外国との信頼関係を失う」「安全保障への危険性」と書くだけで十分であるが、それでは国際法とその基準を満たさない。これとは対照的に、ツワネ原則の原則9(b)は「機密指定の根拠として、その情報が属する、原則9でリスト化されたカテゴリーのいずれかに対応した、情報の厳密な分類を示すべきであり、また、開示することによって生じうる損害を、その深刻さの程度、それが起こりうる可能性を含めて、記述しなくてはならない。」とする。5つのカテゴリーは以下の通りである。
1.その情報が戦略上有効である期間中の、進行中の防衛計画や作戦、状況に関する情報
2. 通信システムを含む兵器システムその他の軍事システムの製造、性能、使用についての情報。
3. 国土や重要インフラ又は重要な国家機関を、脅威または妨害工作や武力の行使から護衛するための具体的な手段に関する情報で、機密であることでその効果を発揮するもの。
4. 情報局の活動、情報源、手段に関連又は由来する情報で、国家安全保障の問題に関するもの、及び
5. 外国や政府間機関からとくに極秘を期待されて提供された国家安全保障の問題に関する情報、及び他の外交上のコミュニケーションで提供された国家安全保障の問題に関する情報。
さらに、それぞれのカテゴリーの重要な用語は注記をつけて明確に定義されている。
ツワネ原則は原則11に「各情報の機密指定の決定理由を述べる文言を添付することが推奨されるのは、開示した結果起こり得る具体的な損害に公務員の注意を向けるためである」という注記を含んでいる。
アメリカ合衆国も同様のレベルの明確さを求めている。大統領令(E.O.)13526号は秘密の特定をする機関は安全保障に対して生じうる「損害を確認し、詳細に記述しなければならない」とし、またその情報がどのカテゴリーに属するのかを確認しなければならない、とする。ちなみに、大統領はツワネ原則の5つのカテゴリーと類似の8つのカテゴリーをあげている。(1.2項と1.4項を参照のこと) (996)
2. 秘密保護法は不相応な刑罰を科している。
秘密保護法23条1項は特定秘密の取扱いの業務に従事する者が特定秘密を漏えいしたときは、最長10年の懲役に処する、としている。3条は「その漏えいが国の安全保障に著しい支障を与えるおそれ」があるときにのみ秘匿されうるという有用な明記をしている。しかしながら、その漏えいによって刑事罰がもたらされるためには情報は「合法的に」特定されなければならない、ということを要求していない。秘密保護法は有罪判決が下される条件として、政府に、実害についての証明、または起こりうる害についてすら証明することを求めていないし、また漏洩には悪意が存在したという証明も要求していない。意思について唯一求められている条件は、漏えいが意図的なものであったということだけである。さらに、漏えいが単に過失に基づくものであった場合でも、最高2年の懲役に処される。秘密保護法も運用基準も刑罰について損害との均衡性を要求していない。
特に損害や損害への意図に関する証明を要求せず、秘密の漏洩が公益に資するという防御が不可能で、刑罰の軽減が存在しないところで、23条に記されている処罰は一般への漏えいについて、行き過ぎである。
OSJIが26か国を対象にした調査では、13か国の秘密保護法がスパイ活動、反逆罪、外国への漏えい、損害を引き起こす意図などが存在しない場合に、漏えいに関して定めているのは5年以下の懲役である。
例えばブラジル(1年)オーストラリア、スェーデン、英国(2年)、パナマ、スペイン(4年)コロンビア、ノルウェー(4年半)、ベルギー、メキシコ、パラグアイ、ポーランド(5年)など。ほかの6か国では最長10年以下の懲役、例えばボリビア、エクアドル、フランス、グアテマラ、オランダ、ロシア。
3. 日本の監視機関には独立性と有効な権限が欠けている
日本政府は現在外部アドバイザリーによる委員会と3つの政府機関の少なくとも4つの機関に監視機能を与えている。しかし、外部アドバイザリー委員会は助言の権限しかなく、ある情報について指定解除されるべきだというような指図ができない。3つの政府機関は秘密指定をする行政機関からの独立性がない。これらに加えて、国会が常設の委員会である情報監視審査会を設置した。しかし、委員の選出過程は規模の小さな政党からの議員を排除する仕組みのようである。さらに、政府機関に情報開示を強制する力もない。審査会は特定秘密を審査のために審査会に提出することを行政機関の長に要求できるが、行政機関の長はそれに応じる義務はない。審査会は内部告発者からの通報を受け付けたり、彼らを罰則から守ったりする権限もないし、不適切な秘密指定を阻止する拘束力ももたない。対照的に、ツワネ原則の原則26では以下のように
(a)秘匿情報を請求した者は、情報開示の拒否若しくは請求に関する事柄について、独立機関による迅速且つ低費用の審査の権利をもつ。
(b)独立機関は、たとえ秘匿情報であっても、すべての関連情報への十分なアクセスを含む、実効的な審査に必要な資格と資源を有するべきである。
(c)人は、あらゆる関連問題について、権限のある裁判所や法廷による独立した有効な審査を実施させる資格を有するべきである。
(d)裁判所が情報非開示を承認する判決を出す場合、裁判所は、特殊な状況を除き、原則3に則り、事実に即した根拠及び法的分析を書面で公的に入手できるようにするべきである。
原則31は
「国家は・・・安全保障部門の組織を監視するための独立監視機関を設置するべきである。監視項目には、機関の活動・規則・指針・財務・管理運営が含まれる。このような監視機関は、監視対象機関からは、組織・運営・財政の面で独立しているべきである。」とする。
原則33(d)は「法は、独立監視機関が責務を遂行するために必要な情報にアクセスし解釈できるように、安全保障部門の組織による協力を義務付けるべきである。」とし、原則39B(1)は「国は、保護された開示を受理及び調査する独立の機関を設置又は指定すべきである。この機関は、安全保障部門、及びその内部から開示が行われうる、行政府を含むその他の当局から、組織上及び運営上独立しているべきである。」ということを明確にしている。
4. 資料の廃棄可能時期についての指針がもっと必要である。
運用基準は秘密指定されていた情報がのちに指定解除され、歴史的価値がない場合は総理大臣の了承を得て廃棄できるとしている。しかし対照的に、アメリカ合衆国を含めたほとんどの現代民主主義においては情報を破棄する前に、独立機関がその情報が歴史的に重要かどうかを決定する権限を有する。これは極めて重大な条件である。もしある情報が秘密指定されるほど重要であるならば、秘密指定が不要になった時点でもその情報は重要性を保持しているはずであり、したがって人々はその情報について知る権利を有するからである。
秘密指定の権限を有する公的機関がそれぞれ保持する秘匿情報の資料のリストを作成し補完するべきであるということも重要である。
ツワネ原則15(c)は「各々の公的機関は、保有する機密記録の、詳細で正確なリストを作成し、公開し、定期的に検討し、更新すべきである。ただしその存在自体が、(これらの)原則に基づき合法的に秘匿されているような例外的な文書があればそれを除く」、と規定している。
(運用基準の英訳、英文コメントの和訳 ―― 藤田早苗;英国エセックス大学人権センター)