改憲動向と秘密保全法(本 秀紀 教授)
2013年 02月 14日
「改憲動向と秘密保全法」という文書を書きました。
ぜひお読みください。
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改憲動向と秘密保全法
昨年末に安倍政権が誕生し、参議院選挙の結果次第では、いよいよ明文改憲が政治日程に上ってくるという憲法の正念場である。自民党が昨年4月に発表した「日本国憲法改正草案」は、憲法の平和主義を根本から覆す「国防軍」の創設や、「緊急事態」に際して首相に権限を集中し、国民の人権を制限できるようにするなど、個別の問題点もたくさんあるが、それ以前に、そもそも「憲法」と呼べる代物か、たいへん怪しい。
憲法とは、国民の人権を保障するために国家権力に対して縛りをかける規範である。民主主義国家は国民の人権を保障するために存在するハズなのだから、国家が人権を侵害するのは、本当は「想定外」である。にもかかわらず、国家権力は人権を、とりわけ少数者の人権を侵害する。だからこそ、近代国家は、権力担当者が本来あるべき道から外れないように憲法で縛りをかける仕組みを用意した。
くわえて、日本においては、戦前・戦中にその縛りが効かない「憲法」の下で、権力担当者の意に添わない言論は徹底的に弾圧され、あたかも国民の意思が一色に染め上げられたかの様相で、あの侵略戦争を遂行していったのである。
そうした世界と日本の歴史をふまえて、日本国憲法は、個人の尊重(13条)を中核として国民に最大限の自由を保障し、逆に、権力を担当する公務員に憲法尊重擁護義務を課している(99条)。ところが、自民党の改憲草案では、基本的人権を尊重するのは「国民」であり(前文)、全国民に対して憲法尊重義務を課している(102条)。さらに、「個人」の尊重から「個」を削り、「公益及び公の秩序」に反してはならないことを再三強調している(12・13・21条)。これはつまり、個々の人権規定は残されているが、それらは絵に描いた餅、多様な考え方をもった「個」人の意見は封殺され、「公益及び公の秩序」の前にひれ伏さなければならないことを意味する。これは、日本国憲法の「改正」でもなければ、新憲法の制定ですらなく、「憲法」の名でもって憲法とは正反対の「最高法規」で国民を縛ろうという話であって、「戦後レジームからの脱却」をめざす安倍政権にふさわしい。
だが待てよ。考えてみると、この「改憲」により実現する風景は、国民を国家の重要情報から遠ざけ、それを暴こうとする言論を弾圧する秘密保全法がめざす世界と軌を一にしている。安倍政権の登場で明文改憲阻止の運動にエンジンがかかるのは当然だが、その一方で、秘密保全法制定をはじめとする「壊憲」への反対が疎かになっては元も子もない。改憲阻止と壊憲阻止は車の両輪である。
(共同代表 名古屋大学教授 本 秀紀)