秘密保全法 法制化断念を求める新聞社説(信濃毎日新聞、西日本新聞、沖縄タイムス)
2012年 03月 17日
秘密保全法の法制化断念を求める新聞社説を3つ、掲載します。
★ 信濃毎日新聞 03月14日(水)
秘密保全法 法制化はやはり断念を
http://www.shinmai.co.jp/news/20120314/KT120313ETI090002000.html
秘密保全法の法制化論議がくすぶり続けている。政府は今の国会に法案を提出する構えを崩していない。
福島原発事故の経緯を見ても、国民に対する政府の情報開示には問題が多い。法の中身を検討する会議の議事録が作成されていなかったことも、最近になって分かった。
今の政府に秘密保全法という“劇薬”を持たせるわけにはいかない。政府は法制化をすっぱり断念すべきだ。
政府の有識者会議が昨年8月にまとめた報告書が、法制化論議のベースになっている。(1)国の安全(2)外交(3)公共の安全と秩序維持―の3分野で、特に重要な情報を「特別秘密」に指定し厳重に管理する。職員らによる漏洩(ろうえい)だけでなく、漏洩を職員らに働きかけることや、第三者による不正な情報取得も処罰の対象とする。最高刑は10~5年の懲役だ。
報告書が公表されてから、法曹、市民グループなど多くの団体が反対意見を表明している。例えば日本新聞協会は「運用次第では通常の取材活動も罪に問われる。報道の自由を阻害しかねない」とする見解を発表した。
日本弁護士連合会は法律家の立場から、▽国民の「知る権利」が侵害されるなど憲法上の原理と正面からぶつかる▽処罰範囲があいまい、広範で罪刑法定主義の原理に抵触する―との意見書を政府に出している。
それぞれ大事な視点である。無視や軽視は許されない。
福島原発事故で政府は原子炉がメルトダウンした事実を隠していた。放射能の広がりを予測するシステム(SPEEDI)のデータもしばらく公表しなかった。秘密保全法ができると、原発関係をはじめ重要情報が「特別秘密」に指定され、もっと手の届かないところに秘匿されかねない。
法制化の進め方にも問題がある。藤村修官房長官は先日、報告書をまとめた有識者会議の議事録が作成されていなかったことを認めた。情報開示について、政府が甘い考えしか持っていないことを裏書きする。
国民各層の理解、政府の姿勢、法制化のプロセス…。どの面から考えても、秘密保全法には問題が多すぎる。
岡田克也副総理は最近、罰則を科す対象に国会議員も加えるべきだとの考えを明らかにした。議員活動に対する制約を唯々諾々と受け入れるようでは、国会は「言論の府」と言えなくなる。議員一人一人の見識も問われる。
--------------------------------------------------------------------------------
★ 西日本新聞 03月15日(木)
「秘密保全法制化 法案提出の断念を求める」
http://www.nishinippon.co.jp/nnp/item/291924
国の行政秘密の漏えいに対する罰則を強化する「秘密保全法案」の今国会提出を、政府が検討している。
国の安全や外交、公共の安全に関わる情報のうち、特に秘匿を要する情報を「特別秘密」に指定し、漏らした公務員らに懲役10年以下、または5年以下の厳しい罰則を科すというものだ。
国の存立や国民の安全に関わる情報の管理は、もとより厳格でなければならない。国に一定期間「秘密」にすべき情報があることも否定はしない。
しかし、法案では秘密の範囲があいまいで、公開した方が国民の利益になる情報まで、政府の一方的な都合で「特別秘密」に指定することが可能になる。
秘密保全法の制定によって、情報管理の名の下に政府による「情報隠し」が、いま以上に容易になるのではないか。そんな懸念を抱かざるを得ない。
しかも、処罰対象は「秘密」を扱う公務員にとどまらない。第三者が「不正な手段」で秘密情報を入手した場合も、罪に問われることになる。
秘密に指定された情報でも、それを報道することが国民の利益になると判断すれば、秘密を扱う公務員らに接触して情報の開示を求めるのは、報道機関にとって日常的な取材行為である。
現在検討されている内容で法が施行されれば、公務員は罰則を恐れて萎縮し、報道機関の取材を避けるようになるだろう。法の運用次第では、通常の取材活動が秘密漏えいを「そそのかした」として罪に問われる可能性がある。
そうなれば、結果として取材・報道の自由が制約され、国民の「知る権利」が侵害されることになる。
いま必要なのは、国民の「知る権利」を脅かす秘密保全法制の強化ではない。正しい情報をできるだけ早く、広く、国民に公開する体制の充実である。
東日本大震災に伴う東京電力福島第1原発事故の放射能漏れや拡散状況などをめぐり、国民が必要とする正確な情報を迅速に流さなかった政府の対応が、そのことを誰の目にも感じさせた。
行政秘密の保全には国家公務員法の守秘義務違反(罰則は懲役1年以下)で、防衛秘密の漏えいには自衛隊法(同懲役5年以下)で対応してきたが、国の存立を脅かすような不都合はなかった。
民主党政権は、情報公開法改正案を昨年4月から国会にたなざらしにしたままである。「国民の知る権利」を明記し、行政情報の公開範囲を大幅に拡大する情報公開法の制定は、民主党の政権公約でもあったはずだ。
それを放置して、民主主義の根幹である「知る権利」を脅かす法制定を急ぐのは理解できない。この国に求められているのは秘密保全より情報公開である。
情報公開の拡大に背を向けたまま、秘密保全の法制化を目指す現政権の姿勢は選挙で民主党に投票した国民への背信である。速やかな法制化断念を求める。
--------------------------------------------------------------------------------
★ 沖縄タイムス 02月14日(水)
「[ 秘密保全法案] 知る権利に背くものだ」
http://www.okinawatimes.co.jp/article/2012-02-14_29837/
国民の知る権利を保障する情報公開法が十分でないにもかかわらず、政府が「秘密保全法案」の制定に前のめりなのは理解できない。
政府は同法案を今国会に提出する方針だ。外交や防衛、治安の3分野を対象に特に重要な情報を「特別秘密」に指定し、漏らした公務員らに、10年以下または5年以下の厳罰を科す内容である。
特別秘密に指定するのは政府である。範囲もあいまいで、不都合な情報を隠し、恣意(しい)的な指定がなされる懸念を持たざるを得ない。
秘密保全法案は2010年の中国漁船衝突事件で、海上保安官が映像を動画投稿サイトに流したことがきっかけ。米軍情報が漏えいしており、米国からの圧力もあった。
海上保安庁の情報管理で組織的な問題があったとはいえ、国家的秘密に該当するとはとても思えない映像だ。逆に国民の知る権利を侵しかねない。法的にも国家公務員法で対応できるはずである。
特別秘密を取り扱わせることができるのは、適性評価をクリアした職員に限られる。問題なのは適性評価だ。
政府の有識者会議がまとめた報告書では、職員の外国渡航歴や犯罪歴、薬物・アルコールの影響、精神の問題に係る通院歴など、日ごろの行動や取り巻く環境を調査する。漏えいリスクを上司が評価するためという。
個人のプライバシー侵害そのものではないか。配偶者や近親者も調査の対象となる。「平成の治安維持法」と指摘されるゆえんだ。
政府は秘密保全法案より先に情報公開の在り方を考えた方がいい。国民の知る権利に応えず、ブレーキをかけているのが現状だからである。
東日本大震災で、政府が設立した10対策会議が議事録を作成していなかった。議事録なしでは政策決定過程が不明になるばかりか、後世、検証する手段を奪う。
非常事態の中でのこととはいえ、閣僚が参加する会議では文書作成を義務付ける公文書管理法が昨年4月から施行されている。同法に基づき文書作成しないと、情報公開も何もない。
それだけではない。東京電力福島第1原発事故に関連して、文部科学省は緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム(SPEEDI)から得られたデータ、気象庁は放射性物質拡散予測データを、被災地よりも先に米国や国際機関に提供している。
国民の生命に関わる重要な情報だ。政府はいったいどこを向いているのか。
秘密保全法案では故意・過失による漏えい、共謀、教唆、扇動なども処罰される。取材活動も対象となる恐れがある。報道が大きな制約を受けると同時に、公務員の情報公開への姿勢も萎縮させる。
こんな理由から日本新聞協会が反対を表明し、日本弁護士連合会も知る権利を侵害するなどとして反対する声明を出しているのは当然だ。
非公開とした文書の開示を首相が勧告できることを盛り込んだ情報公開法改正案に背を向けながら、秘密保全法案の提出を急ぐのはおかしい。
--------------------------------------------------------------------------------